わたしが嫁に行くまでの記録

貞操観念が狂ってる女の婚活と色恋記録

閉店後、誰も知らない

 

その男と会うのはその日で2回目だった。

最初のきちんとした印象とは裏腹に、部屋着のような格好で現れた男を、わたしはなんの迷いもなく恋愛対象から外した。どうやらわたしの目は今回も節穴だったようだ。

 

後悔の念に駆られながら、男とファミレスに入った。

ええと、そもそも今日はどうして会うことになったんだっけ?

当初の目的さえ、もう分からない。

もはや、早くこの場を切り抜けたくて仕方がなかった。

男のしゃべっている内容は、ほとんどわたしの耳には入ってこない。

 

一体全体、どういった話の流れでそうなったか分からないが、わたしはどうやら奴との賭けに負けて、あるものを差し出さなくてはならない状況に陥っていた。

理由は全く覚えていない。

 

ファミレスから出ると、奴はしつこくわたしに

「りさが言い出したんだから約束守れよ」

と言ってきた。

無言で歩くわたしを横目に、独り言のようなブーイングはしばらく終わる気配がない。

いい加減めんどくさくなったわたしは、覚悟を決めた。

その日が初夏だったか、梅雨だったか忘れたが、半そでTシャツで過ごしても、なんら問題のない気候だったのを覚えている。

わたしは、東京:住みたい町ランキングNo1の街の真ん中で、Tシャツに手を入れ、器用にブラジャーのホックを外し、すばやく外したブラを、男の目の前に高々とかざした。

 

「これで文句ないでしょ!」

わたしは肌を必要以上に露出することなく、ブラを外すという技の成功に酔いしれ、若干興奮気味に声を荒げた。

 

奴は、なぜか無言だった。

それが少々気に食わなかったが、次は奴のターンだったので、わたしは黙っていた。

 

「立っちゃった」

「…はぁ?」

 

奴はそうつぶやくと、わたしの手からブラジャーを取り上げ、駅の方向に足早に向かっていった。

 

 「ちょっと!わたしのブラジャー返してよ!」

 

わたしの声に、奴は全く反応を示さない。

まずい、このままホテルへ直行する気か?

そう思ったが、奴はホテル街とは全く反対の繁華街に向かっていた。

その中の雑居ビルに入り、エレベーターの上がりボタンを押す。

 

ちらりとテナント情報をチェックしたのだが、小さな書店や喫茶店が入っているビルで、そのほとんどはすでに閉店していた。

一体なぜこんなところに?

理解のできないわたしをよそに、奴はエレベーターに乗り込んだ。

 

着いたのは、すでに閉店している喫茶店のフロア。

店内は真っ暗で、非常口ランプの緑の照明が辛うじて店内の様子を映し出していた。

 

「Tシャツまくって、おっぱい見せて」

奴は冷静に、きっぱりとそう言い放った。

その命令に、わたしは唖然とした。

 

ここは完全な密室ではない。

もう閉店しているとはいえ、わたしの目の前5メートル先にはエレベーターがあり、万が一、人が来ても文句は言えない状態だった。

だが、しかし、ここでこの男の言うことを聞いておかないと、ブラジャーを返してくれないであろう。わたしは長年の勘でそう思った。

 

観念して、Tシャツをそろりと胸の上までまくる。

とてつもない屈辱感がわたしを襲った。

非常口のランプで照らされたわたしの小さな胸が露になると、奴はうっとりした表情で

「きれい」

と言った。

不本意だったが、その言葉に思わずぞくりとしてしまった。

奴はわたしの胸はすぐに触らず、わたしの唇を軽く吸い上げた。

誰か来るんじゃないかという不安と、普段人が大勢行き来しているであろうビルのエレベーターの前で、自分が淫らなことをされているという状況にひどく興奮してしまった。

それを悟られまいと必死で声を抑える。そのことがますますわたしを興奮させる。

 

唇をひとしきり味わった後、奴は残しておいた好物を食べるみたいに、丁寧にわたしの乳首をべろりと舐めて、吸い上げた。

まったく気持ちがないのに、こんなにぞくぞくしてしまう自分に嫌気を覚えながら、奴の気がすむのを声を殺して待った。

 

時間にして数分だったと思う。

満足したのか、奴がブラジャーを返してくれた。

 

「それ着けて早く帰りなよ。もうすぐ終電なんでしょ?」

俺はこの後友達と会うからさ。

奴はそう言った。

わたしは無言でブラジャーを着け、奴と一緒に雑居ビルを後にした。

男は、意外なことに改札口まで見送ってくれた。

 

あのフロアに監視カメラがあったら、いろいろ終わりだな。

家に帰って冷静になったわたしは、そう思って青くなった。

 

 

 

若気のいたりです。