円周率のような関係 2
円周率のような関係 1 の続き
言葉でなら、なんとでも言えるタイプの人間がいる。
男は饒舌になって、女はその場を取り繕うために適当にあしらう。
実際思ってもいないことを口に出すのは居心地が悪い。
感情に直結する言葉なら、なおさらだ。
わたしはセックスの時に、好きだとか愛してるとかはあまり言わない。
恐らくだけど、割と冷静なんだと思う。
本当に我を忘れられるのは、精神的に追いつめられた時だけだ。
”ごめんね、実は結婚してるんだ”
カミングアウトをした男は、その後自分の正体を明かしてくれた。
職業、職場、家族構成に至まで、細かく。
なにか不安な事はないか?とまで聞いてきた。
”病気にさえならなければ、不安なんて特に無いよ”
わたしはそう答えた。
"甘えていいよ、むしろいっぱい甘えてよ"
"好きって言ってよ、俺の名前呼んでよ"
"愛してる "
セックスの最中に繰り返し聞こえてきた言葉だ。
この場合のこれらの言葉は、言葉以上の意味をなさない。
セックスを美味しくするための調味料だ。
身体は反応してるのに、心は全く動かない。
この男と、樋口と、あの男の子と、一体何が違うんだろう。
「ねぇ、俺とその男の子とさ、どっちが気持ちいい?」
「・・・・・林くん」
「うそつくなよ」
うん、ごめんね、きっと嘘だね。
気持ちいいのは本当なんだけど。
なんだろう、ぞくぞくしてるんだけど、
何かが全然物足りない。
心を舐められる感覚が、無い。
でも、大丈夫、わたし達は ほぼ割り切れてる。
きっと うまくやれる気がするの。